歴バス6_キャラ総選挙バナー_わこ

2位 天照和子 サイド

 わたし、天照和子は一人行動が大好きな人間だ。

 クリスマス会のようなワチャワチャも、じつは意外と楽しいらしいと学んだものの、年に一度くらいでよい。

 本日はとことん、「おひとりさま歴史時間」を充電するのだよっ♪
 そう決めて、まずは吉乃先生のご新刊チェック、本屋さんめぐりの戦へと出陣した。

 本屋さんにしずしずと入り、ずらりならんだ「一之瀬吉乃」の背表紙にほくそ笑む。

 ご新刊はまだ出ていないようだが、その日を待つのも、また楽しきことかな。

 ほかの小説や歴史雑誌もチェックしつつ、ふと思った。

 世界の歴史も、そろそろ勉強しておくべきだよな?

 これから、外つ国の歴史人物がウバワレとして現れることがあるかもしれん。

 歴女・天照和子、いよいよ新世界へこぎだす時がやってきたか――!?

 そう、江戸から明治へと、日本の新時代をきりひらいた、坂本龍馬さまのように。大航海の旅をへて、アメリカ大陸を発見した、コロンブスさまのようにっ。

 まずは基本の基本、『赤ちゃんでも分かる! マンガ世界の歴史』から攻め入るとしよう。

 お値段や、いかに!

 わたしは平台にのった、ぶ厚い本に手をのばす。

 しかし、同時に本を取ろうとした他の客と、ガッと手をぶつけてしまった。

「これは失礼」

「悪ぃ」

 本をゆずろうと手を引っこめたわたしは、相手の顔にきょとんとした。

 そして相手のほうも、大きく目を見開く。

「「ん?」」

 さらさらとした明るい色の髪。

 端正な顔だちの中で、ひときわ印象的な両の瞳。

「コオリくんじゃないか」

「和子」

 

 ――というわけで、我々は、緊急・歴友読書会@神社のベンチと相なったのであるっ。

 しかし、本日のコオリはどうしたのだろうか。

 さっきから、みょうに顔色が赤い。そしてどこか気もそぞろ。

 我々は『赤ちゃん世界史』を広げ、世界地図うんちくを熱く語らっていたのだが。

 視線を感じて、となりのコオリに目を向けた。

 夢中になって身を乗りだしていたせいで、おどろくほど近くに、美しき赤い眼がある。

 わたしは思わず、ヒュッと息をのんだ。

 ……どうしたことであろう。彼はひたすらに、わたしの瞳を見つめている。

 まるで魂を奪われたような、ぼんやりとした様子。そして目もとはほんのり赤くそまっている。

 わこ、と、彼のくちびるがゆっくり動いた。

 わたしはその呼びかけの、熱いもののこもった声色に、心の臓が、ドキリと鳴――、

「へぐちっ!」

 鳴るまえに、くしゃみがまろび出た。

 コオリはベンチの背もたれに、ズダンッと背中を打ちつける。

「? ? ?」

「いやいや失敬。クサンメ・クサンメ・クサンメ」

「い、今の金縛りみてぇなの、どうやったんだ? 日の御子の必殺技か? すっ、すげぇ攻撃力高ぇな……っ」
「なにをアホなことを。わたしはただ冷えただけだが、キミはカゼっぽいのだろう。さっきから顔が赤いわ、ボーッとしているわ。それこそカゼの諸症状。クサンメ・クサンメ」

 わたしマフラーを口もとまで引きあげつつ、呪文をとなえる。

「カゼか。言われてみりゃ、なんか調子が変なんだよな。つかなんだよ、そのクサンメって」

「諸説あるが、『くしゃみ』という言葉の由来だよ。古代インドの言葉で、『長寿』という意味だそうでな。仏教をひらいた古代インドの王子さま、ゴーダマ・シッダルタさまがくしゃみをなさったとき、弟子一同が『長寿クサンメ長寿クサンメ長寿クサンメ』ととなえたことから、『クサンメ』が『くしゃみ』になった――とのことだ」

「へぇぇ……。じゃあそれ、オレも言ったほうがいいよな。クサンメ・クサンメ・クサンメ」

「うむ。キミもすこやかであれよ。クサンメ・クサンメ・クサンメ」

 クサンメを合唱していたら、真横に影が落ちた。

「――あんたたち、なにやってんです?

 なんと。狸原礼が、はげしくニヤニヤして、わたしたちを見下ろしてるではないか。