歴バス6_キャラ総選挙バナー_れい

3位 狸原 礼 サイド

 ――クサンメ・クサンメ・クサンメ……。

 通りすぎようとした神社から、あやしい呪文の合唱が聞こえてきた。

 足を止めたら、やっぱりあの二人だ。

 若と天照さんが、ムダなほどの近キョリで、ベンチにならんでいる。

 へぇ~~~~え?

「あんたたち、なにやってんです?」

 ぼくは笑いを噛みころしつつ、声をかける。

 二人はギョッとしてぼくを見上げた。

「なんと礼くん。キミにもバッタリとは、めんど……ふしぎな日もあるものだ」

「今、めんどうって言いましたよね。っていうか、若とはバッタリ・・・なんですか。なーんだ。てっきりデートかと」

「「デッ」」

 二人は、同時に悲鳴みたいな声を上げる。

 けれど天照さんほうは、すぐにぎゅっと顔をゆがめた。

「へくちっ、へくちっ」

 思いのほか、かわ……………………おとなしいくしゃみが飛びだす。

「和子、だいじょぶかよ。和子こそカゼじゃねぇの?」

「いやいや。そんなヤワなきたえ方はしておら、はっ、ひゅっ、へくぢっ

 この寒空の下、耳まで赤くして、そんなに若と「歴友活動」をしたかったようで。

「そういえば、くしゃみはだれかにウワサされてるしるし・・・っていう言い伝え、知ってます? 『一回目はだれかにホメられてる。二回目は笑われてる。三回目は恋されてる。四回目からはただのカゼ』。天照さん、三回目でしたね~」

「コ、ココココココッ」

 バカさまがニワトリ化した。

 天照さんのほうはスンッと真顔になる。

「もちろん知っているぞ。それは中国最古のバラエティソングアンソロジー、『詩経』から始まった、都市伝説的なやつだろう? ちなみにわたしのくしゃみは、さきほどのをふくめて四回目だ」

「「それはカゼ」」

 若とぼくの声が重なった。

「いやいや、心配はご無用。たいしたことはない」

 笑ってみせる天照さんをスルーして、若はザッと立ち上がった。

「もう帰んぞ」

「バカな! まだ見開き一ページめの地図しか語っていないのだぞっ」

 天照さんにそでをつかみ止められた若は、まんざらでもないように動きを止める。

「…………じゃあ、店かなんか入るか」

「すまんが、吉乃先生のご新刊にそなえて節約中なのだ。わたしはここでよい」

「今日くらい、オレがおごる――って、あ。やべ。財布わすれた

 二人の視線が、ぼくに……、いいや、カバンの中の財布に集まってくる。

 なんなんだ、この展開は。

 おもしろがって声をかけるんじゃなかったと、ぼくは心底後悔した。

 

「礼も和子も、食えばいいのに」

 若がエベレスト肉バーガーにかぶりつきつつ、きょとんとしてぼくたちを見る。

「ケッコーです」

「わたしは朝ごはんを食べてきた」

 ぼくと天照さんは、紅茶のみ。

 正直、若のトレイの肉塊と、巨大なポテトのふくろを見るだけで、胸やけしそうだ。

「しかしコオリくん。財布を忘れたって、さっきの本屋さんではどうしたのだね」

「ア? 狐屋のツケばらい。むかしからある店だと、たいていそれ・・でなんとかなんだよな」

「ツ、ツケばらい。時代劇でサムライがよくやる、『後でまとめてお金はらうから、とりあえず今はタダで』というヤツか。現代でも通用するとは、おそるべし狐屋家の歴史力……っ!」

 天照さんは妙なところで感心している。

 彼女は紅茶のカップをすすりながら、ぼくのほうに目を向けた。

「悪いな礼くん。わたしのぶんも、今回はツケといてくれたまえ」

「いりませんよ。あとで管理部に出してもらうんで。ついでに怒られんのはバカさまのほうですから、いい気味ですよね」

 ぼくは紅茶にレモンシロップを入れながら、あきらめまじりに二人をながめる。

 天照さんは「ふぅん」と眉を上げ、ぼくと若を見くらべた。

「なんだかんだ礼くんは、世話焼きというか、若さまをあまやかしがちだよな」

「ハァ? ジョーダンじゃねぇです」

 また、「初恋の君」だからどうだとか言い出すつもりか。

 顔をしかめてにらんでみても、天照さんはンフフと邪悪に笑う。

「これ、なんか粉ついてんぞ?」

 若がおぼんのトッピング粉を見つけて、首をかしげた。

「あぁ。それはコーラに入れるとおいしいヤツですよ」

 すかさず答えたぼくを信じて、若は「へー」と、粉をコーラにぜんぶぶちまける。

「まことか。冷たい飲みものに、ポテト用の粉チーズが溶けるとは思えんが」

 天照さんが身を乗りだしたときには、若はもうストローをくわえてた。

   ズッ。………………げほぉっ!

 そして、ぼくと天照さんにむけて、コーラを噴きやがった!

 こっ、このっ、大バカさまめ!!