歴バス6_キャラ総選挙バナー_ほまれ

4位 兎川ほまれ サイド

「ご無事ですか、日の御子さま」

「お、おお……っ?」

 うち――兎川ほまれは、和子さまの前にトレイを立て、コーラのしぶきからお守りした。

「なんと、タオ……じゃない、ほまれか。助かったよ、ありがとう」

「いえ。お役に立ててなによりです」

 しかしチョクゲキを受けた狸原の長男は、顔面からコーラをたらしつつ、怒りに震えている。

 うちが観察していたところでは、まったくの自業自得のようやけど。

「うぉい、バカさま。なにしやがんですか」

「ゲホッ、れ、礼こそ、変なウソつきやがって……っ。ゴホッ、粉が、肺に入っただろがっ」

 まだムセこむ若も、メガネをはずしてハンカチでふく狸原も、目を赤く光らせている。

 こんなところでバトルするつもりなんやろか。

 まったく、どうしようもない。

 和子さまを外へお連れしようかと考えていたところで、和子さまが「どうどうどう」と、二人を引きはがした。

「礼くんはさっさと顔を洗ってきたまえ。時間がたつとベタベタになるぞ。コオリくんはおとなしく、サクサクとハンバーガーを食べるっ。歴友活動の続きが待っているのだ!」

 二人はしぶしぶ、和子さまの言うとおりに動きだした。

「さすがは日の御子さま。みごとなご仲裁です」

 かたわらにヒザをついたうちを、和子さまはあらためて、少しおどろいた顔でながめられた。

「今日は忍び装束ではないのだな」

 おっしゃるとおり、うちはぶ厚いダテメガネとマスクで顔を隠した、私服すがただ。

 今日は高校も休み。上さまのご命令もない。

 完全なプライベートや。

「時間ができたので、我が主人を見守りにまいりました。しかし、おジャマするつもりはありませんので。失礼いたします」

〝影〟は、必要以上に表へ出てくるものではない。

 うちはひざまずいたまま頭を下げ、いそぎ店を出る。

 そして街路樹のてっぺんにもどった。

 ここからならば、ひそかにウィンドウをのぞける。

 朝から和子さまの道中を見守らせていただいたが、四度もくしゃみをなさっていた。

 おカゼをめされてないかが、すこし心配や。

 彼女と若の横顔をじっと見つめる。

 ――あいつ、わざわざ和子をながめに、ココまで出てきたのかよ。

 ――家にいると権之助が押しかけてきて、めんどうなのではないか?

 声は聞こえへんけど、くちびるの動きを読めば、話していることは大体わかる。

 狸原も席にもどってきた。

 若と狸原はまだむっつりしとったけど、和子さまがテーブルに歴史の本を開き、あふれんばかりの知識をひろうなさる。

 すると若が「へーっ」と目を大きくし、狸原も話に乗る。

 うちは和子さまを見守りに来たはずが、若と狸原の横顔に目をうばわれてしまった。

 このまえタオ・・として忍びこんだ、天照家ナベ会でも感じたが――。

 若は、あんな楽しげな笑みをうかべる方やったろか。

 狸原も自覚があるのかないのか、メガネのおくの瞳が、やたらと優しい

 そして和子さまの、花の咲くような笑顔

 ……ウチはこそばゆい気持ちになってきた。

 そしてふと、権のことを考える。

 あいつが休日、おとなしくしてるとは思えへんし。

 どうせまた、「ほまれはぁ!?」と、おばあさまにつめよっているころか。

 ……おばあさまに迷惑かけてないやろな。

 うちはこずえから飛びおりた。

 下にいた通行人がギョッとして腰をぬかす。

「上さまにごあいさつしてから、帰るとするか」

 ウィンドウごしの和子さまたちに、うちは深々と頭を下げる。

 あの方は……、氷のようだった若を変え、腹の読めなかった狸原の長男を変え、そしてきっと――、字消士の歴史を変えてくださる方だ

「また参ります。日の御子さま」

 うちはくちびるのはしを持ちあげ、かすかにほほ笑んだ。