5位 森つぐみ サイド
ボク――森つぐみは、休日の今日も、ベッドに転がってる。
平日のボクは、部屋で本を読んだり、オンライン講座の動画をながめたりしながら、ひたすら放課後になる時間を待つ。
四時くらいになると、学校帰りの里が、連絡帳や宿題のプリントを届けに来てくれるんだ。
だけど最近は、読書クラブだけ、ちょっぴり顔を出してる。
里がパッと顔を輝かせて喜んでくれるから、それがうれしくて、ついがんばっちゃうんだけど。
「……でも、休みの日はな」
休みの日だって、里は予定がないかぎり、うちに遊びに来てくれる。
クラスのイベントをやるときも、ゼッタイ声をかけてくれるし。
ボクはいつも、「いくら友だちだって、なんだか悪いなぁ」っていう気持ちと、里に会えてスナオにうれしい気持ちで、胸の中がぐるぐるしてるんだ。
今日は、里、うちに来るつもりかなぁ?
親はずっと家にいるつもりらしい。うかうかしてると、買い物につき合わされそうだ。
親に声をかけられる前に、図書館でも行っちゃおうかな。
でも、外でだれかに会う可能性を考えたら、腰が引ける。
瀬戸くんとか鷹村くんとか、こわい人間じゃないのは分かってるんだけど。
里がいないときにバッタリは、なにを話していいか分かんなくなるんだよな……。
ボクはノートパソコンを開いて、図書館のサイトを開いてみる。
「あっ、届いてる!」
里が好きそうな恋愛小説、やっと予約の順番が回ってきたんだっ。
ボクは急にやる気を出して、ベッドから飛び起きた。
外に出るしたくをしながら、伸ばしっぱなしの髪をむすぶ。
そろそろ切りに行かないとなぁと思いながら、ふと、本だなのピンクの背表紙に目が行った。
里のバイブル、「オレさま男子」シリーズだ。
背表紙には、少女マンガのタッチで描かれた、イケメンのイラストが入ってる。
キリッとした顔つきの、不良タイプのキャラ。
里がいつも「かっこいい~~!」って叫んでる、ヒーローだ。
「……リアルでも、里が好きになる相手って、こういうタイプなんだろな」
狐屋くんとか狸原くんみたいな、強くて、カッコいい男子。
鏡に映した自分はひょろひょろで、力強さのかけらもない。
狐屋くんたちも、「オレさま男子」のヒーローも、ボクとは正反対。
ハーッと、重たい息がモレた。
どうやったって、ボクは里にキャアキャア言ってもらえるタイプにはなれそうにない。
ボクは前髪をぐっと後ろになでつけて、こめかみを両手ではさんで、タレ目をつり目にする。
「……愛してる。オレを信じて、だまってついてこい! さ、さ、ささささ里っ!」
ヒーローの決めゼリフを、マネしてみる。
カッコつけて言ってみたとたんに、鏡のなかのボクはみるみる赤くなる。
「言えるわけないよ~~っ!」
ベッドにつっぷして、自分のはずかしすぎる行動にもだえ苦しむ。
キャラじゃないにもほどがあるっ。
ピンポーン♪
玄関のほうから聞こえた音に、ボクはハッとして顔を上げた。
「あらぁ、里ちゃん。いつもありがとうねー」
リビングで、お母さんがインターホンのモニターをのぞきこんでる。
その横をヒュンッと通りすぎ、ボクは玄関まで全速力!
「里っ! お、おはよっ」
里はなぜか、いつもみたいにドアから入って来ず、外にいるみたい。
ドアを押し開けたとたん、くつしたの足が、つるんっとすべった!
ガンッ。
思いっきりひっくり返って、後ろ頭を打ちつけちゃった。
視界にチカチカ星が飛ぶ。
「つ、つぐみぃ? だいじょぶ~っ?」
心配そうにのぞきこんでくる里の両がわから、みそとしょうゆ――里んちの犬が、ボクのほっぺたをべろんべろんっとなめ上げてきた。
……ううう。やっぱりボク、ぜんぜんカッコよくできないや……っ。