歴バス6_キャラ総選挙バナー_さと

7位 水谷 里 サイド

 わたし、水谷里のお休みの日は、朝ちょー早い。

 だって、ベンキョーしなくていい、オール・フリータイムだよーっ!?

 なにして遊ぼっかなーって考えて、最初にうかんできたのは、つぐみの顔だ。

「でもつぐみ、朝はゆっくり寝てそうだしなぁ」

 瀬戸とか、サッカークラブのメンバーに声かけてみる?

 クラスの女子、今日ヒマなコいるかな?

 でもあそこらへんを誘っちゃうと、つぐみはゼッタイ合流しないだろうから、つぐみんちに行く時間が、ちょっぴりだけになっちゃうもんなー。

 結局、どうしようか考えながら、「オレさま男子」シリーズをぱらぱら読んでるうちに、あっという間にお昼ちかくなっちゃってた。

 ぎゃっ、休みが半分終わっちゃう!

 わたしはあわてて部屋から飛びだした。

 とりあえず、つぐみんち行ってみて、それから考えよっ。

「外行ってきま~す!」

「あー、里! 出かけるなら、みそとしょうゆの散歩おねが~い! あたし今日当番だけど、彼氏とのデートに間に合わないっ」

「マジでぇっ?」

 断る間もなく、おねえちゃんからリードを押しつけられてしまった。

 

 わっふわっふ走る二匹といっしょに、わたしもわっふわっふと、つぐみの家までダッシュ!

 つぐみは犬の散歩、つきあってくれるかなぁ?

 外は歩きまわりたくないだろうから、やっぱり断れられちゃう気がするなー。

 せっかく休みの日で、つぐみとゆっくり話せるかと思ったのにさーぁ。

 おねぇちゃん、自分はデートだってズルくない~?

 ほとんどあきらめ気分で、つぐみんちのチャイムを押したんだけど――。

 つぐみは転んじゃうほどのイキオイで飛びだしてきて、「行く!」って即答してくれたんだ。

「えっへへ~」

「な、なに?」

 満面の笑みのわたしに、つぐみはふしぎそう。

 毎日の散歩コースは、河川敷のルートだ。

 ギターで弾き語りをしてる人がいたり、ちっちゃいコが水遊びしてたり。

 その中を、みそとしょうゆと、つぐみとお散歩。

「た~のし~いなっ」

 笑顔を向けると、つぐみはめっちゃ深々とうなずいた。

「う、うんっ。ボクも楽しいよ」

「ほんとっ? 外イヤだったら悪いなーって思ってたから、よかったー!」

里といっしょだから、大丈夫」

 わたしたちはまた、えへへ~っと笑いあう。

「そういえばさー。つぐみ、おれ・・って言うの、やめたの? 最近ボク・・だよね?」

「ウッ。……そ、それはね、『オレさま男子』のヒーローのマネしてたんだよ。ちょっとでも、彼みたいにカッコよく……、強くなれるかなって。でも、ボクには変だよなって気がしてきて」

 となりを歩くつぐみの顔が、みるみる赤くなっていく。

「ワー、それ、わかる! わたしもさ、アミィちゃんに西郷隆盛の歴史うんちく聞いて、カッコイイーって思って。わたし・・・じゃなくて、おいどん・・・・にしようと思ったのっ」

「お、おいどん……。そっか、明治維新の立役者の西郷さん、鹿児島の人だもんね」

「そー! その西郷さんさ、大の犬好きでねー。十匹以上も飼ってて、戦争中で食糧がないときも、自分のごはんをあげてたんだってぇっ。わたしめっちゃカンドーしたのにさ。おいどん・・・・はやめとけって、おねえちゃんに止められてさぁ」

「あはは……」

「まぁベツに、ボク・・でもおれ・・でもおいどん・・・・でも、なんでもいっかぁ? 自分をなんて呼んだって、わたしはわたしだし、つぐみはつぐみなんだもんね

 わたしがぺらぺらしゃべるのを、つぐみはシンケンに聞いててくれる。

 しばらくたってから、彼はしみじみとうなずいて、それから前を見て、もう一度うなずいた。

「ほんとに、そうだよね」

 つぐみの長い前髪を、冬の風がサァッと吹き流した。

 そのまっすぐな瞳に、わたしの心臓は、なんでか急にどくんっとハネた。

「……きだなぁ」

 つぐみの口から、小さな声がぽろっとこぼれた。

 彼自身も無意識に、ほんとに、ぽろって感じだったけど……。

 んえっ? 今、「好き」って聞こえた気がするぞ?

 いやいやいやいやっ、気のせいだよねぇ?

 そのタイミングで、みそたちにグンッとリードを引っぱられた。

「おわぁっ!? みそ、しょうゆっ、走るなぁぁ~~!」

 わたしは悲鳴を上げながら、みそたちのダッシュに引きずりまわされる。

 あれええええ? わたし、なんでこんなに顔が熱いんだろっ?

どんっ!

 みそとしょうゆが、向こうから走ってきただれかに、正面衝突した!

 そのコが両腕でかかえてた大荷物から、ゴロゴロゴロッとなにかが落っこちる。

 大量のサツマイモだ。

「ああ~っ、ごめんなさぁい!」

 駆けよってきてくれたつぐみと、あわてておイモを拾い、そのコの荷物のうえにのせる。

「よけそこなっちゃって、スミマセン」

「すっごい量のおイモだねぇ」

「焼きイモにするつもりなんです。よかったらそれ、おわびにどうぞ」

 少年はぺこりと頭を下げると、大量のおイモを大事にかかえて、通りを走りさっていく。

 残されたわたしたちの手には、まるまるとしたでっかいおイモが、それぞれ二本。

 つぐみと顔を見合わせる。

「焼きイモだって」

「あの……、うちのオーブンで作ってみる? みそとしょうゆも、焼きイモ食べれるよね。あ、でも、里には毎日来てもらってるのに、今日もなんて悪いか」

 そういえば、もうすぐお昼ごはんの時間だ。

 おなかがぐうぅ~っと鳴って、わたしより先に返事した。

「行く!」

「えっ、いいのっ? やったぁ!」

 つぐみの思いもよらない、力強い大きな声。

「わたしだって、やったぁだよっ!」

 よぉし、そうと決まれば、みそとしょうゆと、つぐみんちまで一直線だっ。

 今日もサイコーに楽しいなぁっ☆