7位 水谷 里 サイド
わたし、水谷里のお休みの日は、朝ちょー早い。
だって、ベンキョーしなくていい、オール・フリータイムだよーっ!?
なにして遊ぼっかなーって考えて、最初にうかんできたのは、つぐみの顔だ。
「でもつぐみ、朝はゆっくり寝てそうだしなぁ」
瀬戸とか、サッカークラブのメンバーに声かけてみる?
クラスの女子、今日ヒマなコいるかな?
でもあそこらへんを誘っちゃうと、つぐみはゼッタイ合流しないだろうから、つぐみんちに行く時間が、ちょっぴりだけになっちゃうもんなー。
結局、どうしようか考えながら、「オレさま男子」シリーズをぱらぱら読んでるうちに、あっという間にお昼ちかくなっちゃってた。
ぎゃっ、休みが半分終わっちゃう!
わたしはあわてて部屋から飛びだした。
とりあえず、つぐみんち行ってみて、それから考えよっ。
「外行ってきま~す!」
「あー、里! 出かけるなら、みそとしょうゆの散歩おねが~い! あたし今日当番だけど、彼氏とのデートに間に合わないっ」
「マジでぇっ?」
断る間もなく、おねえちゃんからリードを押しつけられてしまった。
わっふわっふ走る二匹といっしょに、わたしもわっふわっふと、つぐみの家までダッシュ!
つぐみは犬の散歩、つきあってくれるかなぁ?
外は歩きまわりたくないだろうから、やっぱり断れられちゃう気がするなー。
せっかく休みの日で、つぐみとゆっくり話せるかと思ったのにさーぁ。
おねぇちゃん、自分はデートだってズルくない~?
ほとんどあきらめ気分で、つぐみんちのチャイムを押したんだけど――。
つぐみは転んじゃうほどのイキオイで飛びだしてきて、「行く!」って即答してくれたんだ。
「えっへへ~」
「な、なに?」
満面の笑みのわたしに、つぐみはふしぎそう。
毎日の散歩コースは、河川敷のルートだ。
ギターで弾き語りをしてる人がいたり、ちっちゃいコが水遊びしてたり。
その中を、みそとしょうゆと、つぐみとお散歩。
「た~のし~いなっ」
笑顔を向けると、つぐみはめっちゃ深々とうなずいた。
「う、うんっ。ボクも楽しいよ」
「ほんとっ? 外イヤだったら悪いなーって思ってたから、よかったー!」
「里といっしょだから、大丈夫」
わたしたちはまた、えへへ~っと笑いあう。
「そういえばさー。つぐみ、おれって言うの、やめたの? 最近ボクだよね?」
「ウッ。……そ、それはね、『オレさま男子』のヒーローのマネしてたんだよ。ちょっとでも、彼みたいにカッコよく……、強くなれるかなって。でも、ボクには変だよなって気がしてきて」
となりを歩くつぐみの顔が、みるみる赤くなっていく。
「ワー、それ、わかる! わたしもさ、アミィちゃんに西郷隆盛の歴史うんちく聞いて、カッコイイーって思って。わたしじゃなくて、おいどんにしようと思ったのっ」
「お、おいどん……。そっか、明治維新の立役者の西郷さん、鹿児島の人だもんね」
「そー! その西郷さんさ、大の犬好きでねー。十匹以上も飼ってて、戦争中で食糧がないときも、自分のごはんをあげてたんだってぇっ。わたしめっちゃカンドーしたのにさ。おいどんはやめとけって、おねえちゃんに止められてさぁ」
「あはは……」
「まぁベツに、ボクでもおれでもおいどんでも、なんでもいっかぁ? 自分をなんて呼んだって、わたしはわたしだし、つぐみはつぐみなんだもんね」
わたしがぺらぺらしゃべるのを、つぐみはシンケンに聞いててくれる。
しばらくたってから、彼はしみじみとうなずいて、それから前を見て、もう一度うなずいた。
「ほんとに、そうだよね」
つぐみの長い前髪を、冬の風がサァッと吹き流した。
そのまっすぐな瞳に、わたしの心臓は、なんでか急にどくんっとハネた。
「……きだなぁ」
つぐみの口から、小さな声がぽろっとこぼれた。
彼自身も無意識に、ほんとに、ぽろって感じだったけど……。
んえっ? 今、「好き」って聞こえた気がするぞ?
いやいやいやいやっ、気のせいだよねぇ?
そのタイミングで、みそたちにグンッとリードを引っぱられた。
「おわぁっ!? みそ、しょうゆっ、走るなぁぁ~~!」
わたしは悲鳴を上げながら、みそたちのダッシュに引きずりまわされる。
あれええええ? わたし、なんでこんなに顔が熱いんだろっ?
どんっ!
みそとしょうゆが、向こうから走ってきただれかに、正面衝突した!
そのコが両腕でかかえてた大荷物から、ゴロゴロゴロッとなにかが落っこちる。
大量のサツマイモだ。
「ああ~っ、ごめんなさぁい!」
駆けよってきてくれたつぐみと、あわてておイモを拾い、そのコの荷物のうえにのせる。
「よけそこなっちゃって、スミマセン」
「すっごい量のおイモだねぇ」
「焼きイモにするつもりなんです。よかったらそれ、おわびにどうぞ」
少年はぺこりと頭を下げると、大量のおイモを大事にかかえて、通りを走りさっていく。
残されたわたしたちの手には、まるまるとしたでっかいおイモが、それぞれ二本。
つぐみと顔を見合わせる。
「焼きイモだって」
「あの……、うちのオーブンで作ってみる? みそとしょうゆも、焼きイモ食べれるよね。あ、でも、里には毎日来てもらってるのに、今日もなんて悪いか」
そういえば、もうすぐお昼ごはんの時間だ。
おなかがぐうぅ~っと鳴って、わたしより先に返事した。
「行く!」
「えっ、いいのっ? やったぁ!」
つぐみの思いもよらない、力強い大きな声。
「わたしだって、やったぁだよっ!」
よぉし、そうと決まれば、みそとしょうゆと、つぐみんちまで一直線だっ。
今日もサイコーに楽しいなぁっ☆