歴バス6_キャラ総選挙バナー_ごんのすけ

8位 鹿ヶ谷権之助 サイド

「ほまれ、来てないのぉ!?

 今日はほまれんちじゃなくて、狐屋のほうに来てみたんだけど、おれ、勘がハズれた~っ!?

 休みでフリーな一日なら、きっとほまれは〝次の主〟の和子ちゃんを見に行くでしょ?

 そしたらついでに、上さまにあいさつしに来ると思うじゃぁぁん。

 玄関でガックリ手をつくおれを、狐屋の事務方が、かわいそうなモノを見る目でながめてくる。

「ちょうど庭で、上さまがおイモをふるまってくださるそうなので、よろしければ」

「でも、ほまれはいないんでしょお?」

「ならば、鹿ヶ谷のお客人はお帰りになると、上にお伝えします」

「あー、だけどせっかく誘ってもらったら、食べてかなきゃだよねっ。おじゃましまーす」

 おれはくつをぬいで、いそいそ上がりこむ。

 今日は大そうじをやってるんだ。

 いそがしそうに行きかう人たちの中、おれはたき火のにおいが漂ってくるほうへ。

「おや権之助。いいところに来たね。おまえも好きなのを選ぶといいよ」

「わー、ありがとうございまーす」

 おれは答えながら、ちょっとビックリして庭を見まわす。

 上さまをかこんで、見習いたちがワイワイと、たき火からアルミホイルの包みを取りだしてるとこだ。

 上さまは子どもたちに囲まれて、まるで小学校の優しい先生みたい。

 狐屋って「隙あらば斬る!」みたいな、すっげーピリピリしたイメージだったけどな。

 こんなかんじだったっけ?

 いや、正月のあいさつとか、なんかあった時の非常事態の会合くらいしか来てなかったから、たんにおれが、ふだんの感じを知らなかっただけか?

 すると、横からホイルの包みをさし出された。

 おれはその相手に、ぱちぱち目を瞬く。

ほまれ! やっぱこっちに来てたんだっ」

 ぶ厚いメガネにマスクすがただけど、どう見てもほまれだ。

「上さまにだけ、こっそりごあいさつして帰ろうと思ったんやけど。タイミングをまちがえたみたいやわ」

「ほまれ、にぎやかなトコは苦手だもんな」

 おれはもらったホイルを見つめて、すっごいうれしくなってくる。

 ほまれが、おれのために選んでくれたんだ。それだけで幸せな気分になるぞ。

 おれたちはにぎやかな輪からはずれて、縁がわにならんで腰をおろした。

「すれちがわんで、よかったわ」

「へ? なんの話?」

「…………なんでもあらへん」

 ほまれはだまっちゃった。

 ……けど今の、おれと・・・すれちがわなくてよかった、って意味か?

 ほまれもおれと会いたいって思ってくれてた?

 いや、さすがにソレは、まさかだな。

 考えんのをやめて、ホイルの包みを開けようとしたところで、

「――あれ。権とほまれも、こっち来てたのか」

「うわ。鹿ヶ谷が来るだけで、屋敷のバカ濃度が急激に上がりますね」

 若と礼も帰ってきたみたいだ。

 見習いたちが立ち上がって、若に頭を下げる中、おれはテキトーにひらひら手をふる。

 上さまが二人にも、ホイル包みをぽいぽい放りわたした。

「さぁみんな、おやつにたーんとお食べ。なにが出るかはお楽しみだ」

「あ。オレは腹いっぱいだから、いいや」

 若はなぜか、渡された包みを、いそいで上さまに返す。

「せっかくなのに、もったいないなー」

 オレはホイルをやぶって、目をうたがった。

 なにが出るかお楽しみって――、焼きイモ会なんだから、イモだろって思うじゃん?

 これ、真っ赤に焼けた、伊勢エビだわ。

 となりで絶句してるほまれのは、ただの焼き魚になっちゃった、刺身用のマグロのかたまり。

 礼もすべてをあきらめた無表情で、ホイルを開ける。

 あれはたぶん、マンゴーだな。宮崎マンゴーの丸焼き。

「上さま、焼きイモのイモ成分はどこっ!?

「イモだけじゃ、おもしろくないだろう? 冷蔵庫の中身がそこに出ていたから、ちょうどいいわと思って。おまえたちのは当たりだねぇ」

 上さまは満面の笑みで胸をはる。

「……それは、正月用の食材だったんですけどね」

 後ろにひかえてた事務長が、泣きそうな顔をしてる。

「つまり、闇ナベならぬ、闇焼きイモ!

 おもしろ~っと笑うおれのまわりで、見習いたちがサーッと顔色を失くしていく。

「……オレ、むかし、焼き栗を作ってもらったときも、ホイルの中から、トカゲみてぇなのが出てきて……。開けたら、責任もって最後まで食えって……」

 ぼそっと若が言う。

 みんなの顔がさらに青くなる。

「あれはイモリだ。イモリの黒焼きは、歴史のある薬だよ。ねぇ、礼?」

 にこやかな上に、礼は笑顔でうなずく。

 そして脱出しようとする若の腕を、ガッとつかまえた。

「若、まだ選んでないじゃないですか。どれがいいですか~? ぼくが選んであげましょっか」

「いらねーって言ってんだろっ」

「イモリの黒焼きは、有名なほれ薬なんですよ。好きな相手にふりかけたら、好きになってもらえるそうです」

「オレは、そ、そんなきたねぇ手使わねぇぞっ」

「あれぇ? 若、気になる相手でもいるんですかぁ?」

「それはおまえのほうだろっ!」

 やり合い始めたコオリと礼をながめながら、おれは伊勢エビのカラを割って、身をもぐもぐ。

 わー、さすが狐屋の正月用高級食材。焼いただけで、めっちゃウマいわ。

 ほまれはマグロの焼き身をひざにのせたまま、さわがしいみんなを眺めてる。

 あきれてんだろうなぁと思ったら。

 その目が――、なんだかすごく楽しそうに見えて、おれは今日イチバンびっくりした。

「権。じっと見て、なんなん」

「ううん、なんでもなーい。なぁ、ほまれ。新しい年はさ、なんかもっと、いろんなコトが楽しくなりそうな気ぃしない?」

「……そうやね」

 ほまれはマグロを食べるためか、マスクをすこしズラした。

 若たちをながめるその口もとが、笑ってる……!

 おれにはこの笑顔が、自分がうれしいときより、百倍うれしいんだ。

 できたら、こっち見て笑ってくれたら最高だけどさ。

 そうじゃなくてもいいから、この笑顔が、ずっと消えないでいてほしいや。

 難しそーなことは山ほど起きてるけど、おれたちみんなが笑ってんなら、なんとかなるだろ。

 な、ほまれ。

 おれは祈るような気持ちで、彼女の横顔を目にやきつけて、自分もアハッと笑った。